「TOEICの点数も上げたいし、昇進のために簿記の資格も取りたい」
働きながら学ぶ社会人にとって、「時間のなさ」は最大の敵です。複数の目標を同時に追いかけようとすると、今日は英語、明日は簿記……と手を出してしまい、結局どちらも中途半端になって何も身につかない。そんな「共倒れ」の恐怖を感じている人も多いでしょう。
昔のことわざにも「二兎を追う者は一兎をも得ず」とある通り、人間は本来、複数のことを同時にこなすのが苦手な生き物です。
しかし、私が身を置く医療現場では、このことわざは通用しません。医師たちは、長時間の難易度の高い手術をこなしながら、外来の患者を診て、さらに空き時間には自分の専門医の勉強や論文執筆を「同時並行」でこなしています。彼らは特殊な才能を持っているのでしょうか?
答えはNOです。彼らが使っているのは、脳の仕組みを利用した**「スイッチング(切り替え)」の技術**です。
この記事では、「複数科目の並行学習」に悩むあなたへ、医師が実践している「脳に負荷をかけない超マルチタスク仕事術」を公開します。この技術を身につければ、二兎どころか三兎をも同時に、そして確実に仕留めることができるようになります。
幻想を捨てよ。「マルチタスク」は存在しない
まず大前提として、非常に重要な脳科学の事実をお伝えします。
それは、**「人間の脳は『真のマルチタスク(同時処理)』ができない」**ということです。
聖徳太子のように複数の話を同時に理解したり、右手で英語を書きながら左手で数学を解いたりできる人間はいません。私たちが「マルチタスクをしている」と思っている時、脳内では何が起きているのか。それは**「AというタスクとBというタスクの間で、ものすごいスピードでスイッチを切り替えているだけ(シングルタスクの連続)」**なのです。
そして、この「スイッチの切り替え」には、莫大な脳のエネルギー(スイッチングコスト)を消費します。
英語のテキストを読んでいて、途中で「あ、そういえば簿記のあの問題どうだったっけ」とテキストを替える。この瞬間、脳は激疲労を起こしています。
つまり、複数の勉強を並行させる極意とは、「同時にやろうとする」ことではありません。**「一つのこと以外を完全に忘れ、短時間で深く没入し、そしてスパッと切り替えるシステムを作ること」**なのです。
医師に学ぶ「超高速スイッチング」3つの極意
では、スイッチングコスト(切り替えの疲労)を最小限に抑え、複数の勉強を進めていくための3つのシステムをご紹介します。
1. 「カメレオン勉強法」で環境ごとに科目を固定する
私が最もおすすめする技術が、環境に合わせて脳のスイッチを自動で切り替える「カメレオン勉強法」です。
「今日は帰ったら英語と簿記を1時間ずつやろう」と、同じ机で連続してやろうとすると、脳は切り替えに膨大なエネルギーを使います。
そうではなく、**「この場所・この時間帯は『この科目しかやらない』」と完全に固定**してしまうのです。
– 通勤電車の30分 = 英単語のアプリ【以外やってはいけない】
– 昼休みのカフェ = 簿記の問題を1問解く【以外やってはいけない】
– 帰宅後の自分の机 = 過去問の復習【以外やってはいけない】
このように「場所・時間」と「科目」をセット(If-Thenプランニング)にしておくことで、電車に乗った瞬間に脳は「はい、ここは英語の部屋ね」と自動でスイッチを切り替えてくれます。意志の力で切り替えるのではなく、環境に切り替えさせるのです。
2. 曜日で「メイン科目」と「メンテナンス科目」を分ける
1日の中で「均等に」複数の勉強を進めようとするのは、絶対にやめてください。脳が混乱し、どちらの知識も定着しません。
複数の科目を並行する際は、**「今日はこの科目にどっぷり浸かる」という『メイン科目』の日**と、**「他の科目を忘れないために軽く復習だけする『メンテナンス科目』」**という強弱をつけます。
月曜と水曜は「英語メイン(新規単語の暗記と長文)+ 簿記メンテナンス(過去に間違えた問題を1問だけ見る)」、火曜と木曜はその逆、というようにスケジュールを組みます。
脳は「深く没入する(メイン)」時間を愛し、「浅く広く」を嫌います。1日の中で深く潜るテーマは一つに絞り、残りの科目は「記憶を維持するためだけの数分間の軽作業」にとどめるのが、並行学習の鉄則です。
3. 「やりかけ」で終える勇気(ツァイガルニク効果)
科目を切り替える時、「キリのいいところまで終わらせよう」と思っていませんか?実はこれが、次の勉強を始める時のハードルを上げる大きな原因になります。
心理学に**「ツァイガルニク効果」**というものがあります(ドラマの途中で「続きは来週!」となると、強烈にその後の展開が気になってしまうアレです)。人間は、完了したタスクよりも「中途半端で終わっているタスク」の方を強く記憶し、早く終わらせたいという欲求を持ちます。
この性質を利用し、Aの勉強からBの勉強へ切り替える時は、**あえてテキストの章の途中や、問題の途中で「スパッと止める」**ようにしてください。
「あー、もっと解きたかったのに!」という中途半端な状態で残しておくことで、翌日その科目の勉強を再開する時の「やり始めの心理的ハードル(面倒くささ)」が劇的に下がり、スムーズに没入できるようになります。
複数の勉強を最強の「気分転換」にする
最後に、複数の勉強を並行することの最大のメリットをお伝えします。
それは**「勉強の疲れを、別の勉強で癒やすことができる」**という点です。
例えば、ひたすら暗記モノ(英単語など、主に左脳の言語野を使う)をやっていて疲れた時。スマホで動画を見てしまうと、結局ズルズルと時間を無駄にしてしまいます。
しかしここで、「計算モノ(簿記など、別の脳の回路を使う)」にスパッと切り替えると、脳にとっては「使っている筋肉が変わる」ため、まるで休憩したかのようなリフレッシュ効果が得られ、集中力が持続するのです。
「二兎」いることは、決して悪いことではありません。一方に行き詰まったら、もう一方に逃げ込めるという「最強の気分転換ツール」を手に入れているのと同じなのです。
まとめ
複数の資格・試験勉強を同時に進める「超高速スイッチング術」のポイントは以下の通りです。
– 人間の脳は「マルチタスク」ができないと自覚する
– 「場所や時間」と「科目」を固定し、環境で脳を強制的に切り替える
– 1日の中で「メイン(深く潜る)」と「メンテナンス(復習のみ)」の強弱をつける
– あえて「中途半端なところ」で勉強を打ち切り、次回の開始ハードルを下げる
– 脳の使う部位が違う科目を組み合わせ、勉強を「気分転換」に利用する
複数の目標を持つあなたは、誰よりも欲張りで、誰よりも高い場所を目指している素晴らしい人です。
「共倒れしたらどうしよう」という不安を「脳科学のシステム」で上書きし、今日から、カメレオンのように鮮やかに頭を切り替えて、すべての目標を貪欲に掴み取ってください。まずはご自身の「通勤時間」や「お風呂の時間」に、どの科目を割り当てるかを楽しむところから始めてみましょう。









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